騒ぎが起こったせいで、宴は中止され、女王一行も予定より早くアレクサンドリアに戻ることとなった。
帰る仕度をするためにそれぞれのあてがわれた部屋へと戻ったのだが、ジタンは部屋の扉を開けて息を呑んだ。
ジタンはトットの見習いとして(もうすっかり正体はばれているが)この屋敷に来たので、トットと同室だった。そのトットの姿が先ほどの大広間にはなかったので不思議に思ってはいたのだが……。
「トット先生……」
ジタンは一応呼んでみた。だが、返事はない。
部屋の中には、昨日にはなかったはずの、本の柱が出現していた。
大量に本を積み重ねられてできた柱で、その高さは天上に届きそうなほどだ。それが、何本もある。そして、よくよく見てみると、その柱が囲いのようになっていて、その中心部は柱がなく、空いていた。
そこになにやら、人影が見える。
まさかとは思うけど……
ジタンはその光景を見てあきれ返った。
ずっと、本読んでたわけじゃ、ねぇよな………?
一応疑問形だが、確信に近い。
主が宴で危ない目に遭ったというのに、この宰相は…………
肩をがっくりと落とし、盛大に溜息をはく。
そのとき、誰かが背後で扉をノックする音がした。
振り返ると、コウジュが扉にもたれるようにしてこちらを見ている。
「やぁ。……ちょっといいかい?」
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